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Trance-for-Beginners




はじめてのトランス (その5)
●トランスの未来、ズバリ大予測



 かくしてゴア〜サイケデリック・トランスのシェアは、98年冬現在も地道ながら確実に、ワールドワイドな規模で増大している(とはいえ、アメリカでは西海岸の一部くらいでしかトランス・パーティは根付いていないようだ。思えばレイヴという様式も、徹頭徹尾ヨーロッパ的な風土からしか生まれえなかったということは、ポスト・コロニアリスム/多元文化主義の状況とともに、注目すべき文化現象だといえうよう)。日本国内においてもパーティの数や参加者はこの1〜2年で激増し、勢いはとどまるところをみせていない。
 というわけで最後に今後のトランスの展望なのだが、ある程度の普及/拡大を代償として、かつてのようなクローズドな/アンダーグラウンドな雰囲気は、今後は望むべくもないのかもしれない(なにせかつては、本当に限られた情報を入手した有志によってのみ、“濃ゆい”パーティが営まれていたというアンダーグラウンドな文化だったわけで)。
 またレイヴなりクラブなりのムーヴメントがここ日本で成熟するにつれ、(本稿ではあえて言及しなかった向精神薬や諸々の社会的弊害との兼ね合いで)これが近い将来、諸外国並みの規制を受けないとも限らない。理由などいくらでも、あとからつけられるのである(現行だって終夜営業の問題などで、警察とハコの間には微妙な駆け引きがあると伝え聞く)。そしてそういうパワーバランスは、本場インドのゴアにだって、しっかりあるのだから。
 音のほうもまた日々発達し、より研ぎすまされ、ハードで緻密なものに進化していく傾向にあるようだが、同時にあの様式美的なスタイルが次第に飽きられていくというケースも考えられなくはない。じっさい日本が世界に誇るMatsuriレーベルのDJ、TSUYOSHIなど、いわゆるゴアゴアしたスタイルの枠をなんとか打破しようと、実際のプレイではブレイクビーツやドラムンベースなどを降り混ぜた、1本調子でない幅と広がりを志向しているようだが、ディープにトランスしたければしたいほど/かたや初心者なら初心者なほど、よりベーシックなゴアゴア・モードの際限ない連鎖と反復を希求してしまうものだったりもする。そういう聞き手と送り手の思惑のもんだい等も含め、このトランスシーンの隆盛は、現在の盛り上がりと裏腹に、意外とあっけなく短命で終熄に向かわないとも限らない。
 まあ確実なことは、永遠の生なんてどこにもない……諸業無常という話。では翻って、この一瞬この現在に自分が何に依りつつ、何を感じ、何を信じているかをいかに省察していけるか……などと書くと、また盲信的スピリチュアリストのうわごとと思われるだろうなぁ(苦笑)。
 ちなみに筆者はトランス特有の変成意識経験をへ、素敵な想いも怖い想いもへたところで、にわかに19世紀末にフロイトが固執した「死の欲動」理論と、さらにはベルグソン流の「生の哲学」みたいなところにたちかえる必然性を感じましたよ……あ、あと精神病理学者・木村敏の「時間の生き方の3類形」とトランス状態のアナロジーというところにも、なにかヒントが……って、この話をしだすと全然「はじめてのトランス」じゃなくなるので、この続きはまた別の機会に。
 というわけで、イスラエルのゴアトラ・レーベルの名前にもなっている“熱い”フレーズで、この本稿をしめくくらせていただこう。すなわち“Trust In Trance”と……(熱いね/笑)。


[参考文献]
ゴアトランスについて日本で解説されている/参考になる資料の数はさほど多くないが、以下の各書籍/雑誌/サイトはそれぞれ参考になる記述が含まれており、本稿の執筆にさいしても多いに参照させていただいた。記して感謝したい。ここでで十分にカヴァーしきれなかった論旨については以下を随時、参照していただきたい。

*(レイヴについて)『レイヴ・トラヴェラーズ』清野栄一著 太田出版刊
*(ゴアトランスの音、並びにパーティーについて)『クイックジャパンVol.13』特集・能に効く音楽/ゴア・トランスって何? 太田出版刊
*(ゴア情報、ゴアトランス全般について)『危ない1号』第3巻 特集・快感「さようならゴア」 データハウス刊
*(ダンス/レイヴについて)『オルタカルチャー日本版』収録 「ダンス/レイヴ」の項 メディアワークス刊
*(シャーマニズム全般とレイヴについて)人間の知恵双書@『シャーマンの世界』 ピアーズ・ヴィテブスキー著 中沢新一監修 創元社刊

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