皆さんが当ページをブラウズしている今、あなたの部屋にはどんなBGMが流れているのでしょう?…… 余計なお世話だけど、どうせ同じ時間を費やすなら、目を閉じて耳を傾けるだけで、瞼の裏側に茫洋とした“光景”が広がってくるような……そう、“聞く映画”とでもいうようなミックスCD、あるいは聴くだに暑苦しくなるような=つまり「ぜんぜんチルアウトしない」という、ある種の字義矛盾をはらんだ、アノーマルなアンビエントなんて、どうですか?
てなわけで、ここでは、そういう“通受け(?)”するダウンテンポ・アルバムを10枚ばかり、ピックアップしてみた(が、改めて見直してみたら、セレクションが支離滅裂……)。
1■ The Chakra Journey: Return to the Source / V.A. (RTTS02)
いわゆる初期サイケデリック・トランス期の名コンピレーション。RTTSはイギリスの名門サイケデリック・トランス系パーティのブランド&レーベルなのだが、本コンピは2枚ワンセットで1枚目がトランス/2枚目はアンビエントと、アッパー&ダウナーをひとつに収めた趣向。さすがにトランスサイドは今聞き返すと、いかにも古くさい印象が払拭しきれないが、アンビの方はじわじわ&ねっとりと音に“持っていかれる”展開が心憎い。とくにT2のAstralasiaは、アメリカはThe Third-eye Recordというレーベルより、相当呪術臭い楽曲をリリースしていて、魔術系音楽愛好家も要チェキもの! あとT7では、Dragonflyレーベルの発起人、元Killing JokeのYouthさんがアンビエント・チューンを提供していて、これまたグー!。96年作。
2■The Mystery of the YETI (TIP CD09)
ゴア・トランス系の老舗レーベルTIP Recordsも年々リリース数が減って、潰れたか?という噂すら出ていたけど、最近(注:99年です)になって「TIP WORLD」と改名して復活した模様。で、そのTIPの中心スタッフであるラジャ・ラム&グラハム(The Infinity Project)、Total Eclypseのセルジュ&シュテファン君、そしてHallucinogenのサイモン・ポスフォードらが合作した、初期ゴア系アンビの名盤がこれ。ヒマラヤの雪男イェイティをモチーフにした未知との遭遇=聴く映画。曲が進展するにつれ、雪男が本当にスピーカーのそばまでやって来るのが“見える”ので、心臓に悪いひとはご用心。96年作。
3■ Infinite Excursions-2 / V.A. (TIP CD15)
もひとつTIPがコンパイルした「聴く映画」こと Infinite Excursionsシリーズの2作目。97年作。メンツはThe Infinity ProjectやG.M.S、Doof 、Green Nuns Of The Revolutionなど、いつもバキバキのフルオンチューンをこさえている面々による、かなり“濃い目”のダウンビート・トランス。インナーのイラストがまた強烈にグルグルしていて、たぶんハマると、一晩じゅうでも見ちゃうと思うコテコテ名作ジャケット。ちなみにシリーズ1作目も、Antidoteや Overlordsといった初期ゴアの大家から(先に紹介した)「The Mystery of the YETI」の抜粋まで収録されてて、聴きごたえたっぷり。そしてつい昨年、シリーズ3作目がTIP WORLDからリリースされた……のだが、泥臭さはやや薄れ気味。
4■Mystical Experiences / The Infinity Project (BR005CD)
TIP Recordsの看板ユニット、The Infinity Projectが(なぜか)ライバル・レーベルのBlue Room Recordsからリリースした、アンビエント・ゴアのフルアルバム。出来損ないのカラーコピーまがいのジャケットが、いにしえのトランスシーンを彷彿とさせる(……が、このジャケを3Dメガネで見ると……す、凄げえ!!)。濃厚なポタージュスープのような音のねばり具合。ビートレスでもウニュウニュしっぱなしで、聴くだけで腰くだけ。95年作。
5■Psychic Hamony: Psy Hamonics 1993-1998/ V.A. (PSY-038)
Psy HamonicsはPsycho Disco, Rip Van Hippy, Shaolin Wooden Menといった“壊れ系”エレクトリカ・サイ・トランスの名手が所属するオーストラリアのレーベル(詳しくは別ページ、 オージートランス・ディスクガイドを御参照あれ……)。そんなオージ・サイケの集大成ともいえる当コンピレーションもダンス&アンビエントの2枚組。Disk-2は前述したアーティストに加え、Zen Paradox, Third Eyeあたりが、SEや脅し含みのドローン・チューンをかましてくれる。98年リリース。
6■ Eclipse / V.A. (TWSCD3)
トランス界の青年実業家(?)サイモン・ポスフォードが起こした新興レーベルTwisted Records。レーベル名からして“ねじれてる”っていうくらいに、相当アシッディな音揃い。そのTwisted Recordsがリリースしたアンビ・コンピ。たしかにダンストラックでは全然ないとはいえ、トリッキーで“ヒン曲がって”いるアナログ・シンセのブリブリ音は、神経逆撫ですること必至。かけてるだけでガンガン覚醒してきて、全然チルアウトないから要注意。ただし3曲目だけ、Neenaの女性ヴォイスが癒し系でGOOD!。98年作。
7■Are You Shpongled? / Shpongle (TWSCD4)
“Shpongle”とは、とは、とは? これぞ上で紹介した『Mystical Experiences』プロジェクトの98年度版ともいえるもので、ラジャ・ラム爺とTwisted Recordsのサイモン・ポスフォードのユニットによる、世界一濃密なリスニング・ダブトランス。このShpongleの収録曲、実は前褐した『Infinite Excursions-2』や『Eclipse』にもしっかり収録されてるのだけど、改めて全7曲=78分を通して聴くと、これがめくるめるDMTトリップ・ミュージックとして出来上がっている……っていう発見があるので、ドープ系マニアにはとにかく受けのいい1枚。とくに最後の「.... And the Day Turned to Night」は1曲20分近く、延々と音響がねじ曲がり、めくれあげってゆき、最後の3分程で、大気圏外へとフッ飛ばされるという、ヤバめ失神系アンビエントの最右翼。
8■Space Time Continuum with Terence McKenna / Alien Dreamtime (ASW6107-2)
ちょいと毛色を変えて、トランス&トリップのおエラ方とテクノスター(?)の華麗なる競演をこのへんでご紹介……。まずはアメリカ西海岸系アンビエントの重鎮Space Time Continuumの演奏&ドローンなディジュリドゥの調べに、20世紀最後のサイケデリック・リーダーにしてシロシビンおたくテレンス・マッケナ先生の爆裂トークが覆い被さる……といった趣向の、アルバム。とある某マルチメディア(死語)イベントの実況盤らしいが、英語の意味がわからないわれわれにとっては、テレちゃんのつぶやきもピロートーク? とはいえ下手にヒアリング能力があると、意味の迷宮を彷徨っちゃう可能性も……(とはいえたぶん、「キノコはいいぜえええ……キノコはよお」とかブツブツ言ってるだけ、だと大胆予測するのだが)。93年作。
9■John C. Lilly / E.C.C.O Remix by PBC (HACHIMAN MEDIA PUBLISHERS: IS93-0001)
“学術発表系”を最後にもうひとつ。イルカマニアにしてケタミン番長ことジョン・C・リリー先生のありがたい“お言葉”の数々に、ヒプノティックな反復パターンがウリウリと重なってゆく“エコ・コンシャス・サウンド”……って触れ込みなんですが、何だ「エコ・コンシャス」って?、というくらいにウサン臭い世界にドープ・インしてゆくサウンド。リリー先生のありがたい“お言葉”まで延々ループするにいたっては、チルアウトどころか、ものすごくコワーイ世界の深淵に立たされてしまう、お化け屋敷系アンビエント。肝試し代わりに真夏の夜中に聴いてみるのも一興? 93年作(オリジナルは日本盤!)。
10■(おまけ)Luciana / Juno Reactor (INTER-MODO/INTA002CD)
トランス界のドン、ジュノ・リアクターが1stと2ndの間のドサクサにまぎれてこっそり出した幻のチル・アルバム。たしかにCD屋でも滅多に見かけることがなく、ほどなく生産中止になって久しく、マニアの間でも伝説視されてた珍盤なんだけど、これが某所から手をまわして実物を聴いてみたら、Ben Watkinsさん/Stefan Holweckさんら初期ジュノ面子に加え、なななんとDr. ALEX Patersonの名前までクレジットされてて……というわけでジ・オーブつながりの1枚。肝心の音は、というと……1st『Transmissions』の音色があちこちに見え隠れしてるけど、基本的に62分余りガーとかウーとかSEが唸りをあげているだけ……にもかかわらずもうすでに、この当時から……ジュノ節は健在! 94年作。
そのむかし、ロキシー・ミュージックというグラマラスな格好をしたバンド(今の日本のビジュアル系のハシリみたいなイギリスのボンクラ美大生)の中に、ドラァグ・クリーンもびっくりのデーハな格好をしていた、ブライアン・イーノさんという方がいたのですが……アンビエントといえばこのイーノさんが、そのそものオリジネーターだと、モノの本には書いてあります。
というのもある日、イーノさんは交通事故で病院にかつぎこまれ、入院中の枕元のラジオから流れてきた音楽が、それこそ聞こえるか/聞こえないかの境目くらいの、とっても微かな音だった……そうです。本人は重症でボリュームを動かすわけにもゆかず、またそれくらいの音が(妙な自己主張をしないという意味で)逆に新鮮に聞こえた!――ってことから、そういう“聞き流せるような背景音楽”をアンビエント・ミュージックって、これからは呼ぶぜ。呼ぶぜ呼ぶぜ呼ぶぜ! っていうのが、そもそものハジマリだった、と……。
でもって、今から10年ちょい前、にわか流行したE(エクスタシ−)カルチャーと黎明期のハウス・ミュージックで、毎日バキバキにブッ飛んでた欧米のクラバー連中が「いくらなんでもこんなに連日連夜、飛び過ぎはまずいぜよ!」というわけで、パーティから帰る道すがら、興奮を落ちかせるための骨休め=アフターアワーズのチルアウト、といった“醒まし”の工夫をあれこれ始めたりして……でもって、“それ”用にこさえられたサウンドというのが、いわゆる90年代以降の、拡大解釈された「アンビエント」の起源なわけです……はい。
ところが“醒ます”つもりが、逆に素晴らしすぎて“アガってしまう”アンビエントなんてものも出てきたりして、なかなか一筋縄ではゆきません。ここに挙げているようなテクノ/トランス〜エレクトロ・ミュージック周辺はもとより、現代音楽や民族音楽〜ワールドミュージック、果ては映画音楽(サントラ)やヒーリング・ポップスにも“使える”音源はいろいろあるので、みなさん銘々で自分にあった“ハマリ音”を探してくださいな。(注:この文章は、とある一般読者?対象の雑誌用に書いた原稿を、HP向けにややアレンジしたものですが、
トランス・マニアには何を今さらみたいなコトも、噛んで含めるように書いてあるのは、まぁそのためだと思ってクダサイ.....)