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Trance-for-Beginners




はじめてのトランス (その3)
●体験としての「トランス」



 さてサウンドをめぐる記述が予定外に延々と続いてしまって、音を想像できない方はうんざりされたかもしれない。残りの紙幅を使って、肝心の「トランス」の体験的側面の魅力にせまろう。ところでこれまた前述したように、音楽とトランス(恍惚/失神/憑依)状態との関連性という話題は、歴史的/地理的にいってあらゆる社会における、宗教や部族の儀式から冠婚葬祭等の側面で、あまねく認められるもの。もちろん近代以降のポピュラー音楽シーンにおいても(プレスリーやビートルズからジャニーズにいたる)ポップヒーロとファンの醸し出す「集団ヒステリー」的狂騒状態もまた、ある種のトランス状態といえないことはない。
 ただし、ロックコンサートやアイドル・ショウなどと(テクノの亜種としての)トランスのパーティは、明らかに異なる“体験”構造をもっている、といわざるを得ない(もちろんどちらが上流かといった論議は不毛だとして)。コンサートの主役があくまでもステージ上のアーティストであるのにたいし、パーティの場合、真の意味での主役とは、やはりオーディエンス/参加者であり、DJもオーガナイザーも(理想論的な言い方…だが)あくまでも場を引き立てる“脇役”的存在にほかならず、それがひいてはテクノ体験の独自性をもっとも象徴的に体現している在り方とすらいえる。

 もったいつけてても仕方ない。とりあえずあなたがトランスのパーティに足を踏み入れたと仮定して、そのさいの情景を描写してみよう……サウンドは(上記のような)部族的かつ挑戦的な音、ダンスフロアは幾多のブラックライトで照らされ、蛍光色や白が異様な輝きをみせている。フロアの周囲には、マンダラやCGっぽいサイケ模様やヒンドゥーの神様などをあしらったデコレーションが所狭しと飾られており、オドロオドロしい雰囲気を醸し出している。
 肝心の聴衆の格好はといえば、これがインド風だったりヒッピー調(絞り染めなどのインド/チベット雑貨屋ルックにサイケ・プリントの服、そして民族調ないし光りものアクセサリー)だったり……しかし必ずしもキメキメの画一的ドレス・コードが必要というわけでもなく、自分らが勝手に着たい服を着てればよし、といういい加減さも残されている。むしろ最近では『Boon!』や『Fine』みたいなストリート雑誌でゴアトラ風/民族風ファッションが紹介されたこともあって、ゴアっぽい服装はパーティ以外の昼間の街頭でもしばしば見掛けられる。しかし、まあ本物の面妖さときたら、こればかりは一度実施で見ていただくしかないが……すんごいですよ。
 そもそも夜中からスタートして朝、もしくは昼ぐらいまで延々と続く……というディープな時間帯も新参者にはなかなか敷居の高いセッティングだし、告知もかつてはフライヤーや口コミに頼る率が高く、場所もわかりづらい。しかし参加者の外国人率は(他のクラブと比較しても)飛躍的に多い……どういうわけだか嗅ぎ付けてくるのである、連中は。
 格好の話をつけ足すと、ド派手なサイケ柄でスーパーフィットのフレアパンツを履いているつわものの姿もしばし確認されるが、これは通称ゴアパンと呼ばれているもの。女性客の場合上半身はタンクトップだけだったり、野郎にいたっては上半身ハダカなど、肌の露出/裸族率の高さもまた特徴的(笑)。とはいえみんな踊り&トランス目的のコアな集結率が高いため、クラブ/夜遊びにありがちなナンパ率は予想外に少ない(とはいえイベント系のハコではディスコと間違えてる客層もいないくもないため、声かけられて“アンビリーバブル”とか叫んで非難される輩もたまに散見されるが…)。

 眉間のチャクラ=第3の目の部分にビンディつけたり、蛍光アクセサリーなどのひかりものに風船、あるいはシャボン玉、カレードスコープ(万華鏡)、なわとび……こうしたチャイルディッシュなオモチャの類が、案外会場で人気をよんだりもする。そういう子供じみたおふざけや解放感もまた、自分を“あげていく”と同時に、フロア全体があがってくるスパイスだったりするのだ。ルパード・シェルドレークいうところの“形態形成場”めいたたわ言と思われるかもしれないが、気合いの入った参加者と素晴らしいDJの協調作用によってトランス率があがっていくと、テレパシーにも近い“以心伝心”的な雰囲気にフロアが包まれていくあたり……これも実地で体感していただかないと、にわかには信じてもらえないところかもしれないが。
 そしてゴアといえばあの独特の踊り。もちろん決まったダンスステップなど、本来ここにはないのだけれど、ついついあのスクエアなビートに合わせて、カツカツと足で地団駄踏むように踊る、踊る、踊る。ブラックライトでギラギラと光る瞳、カッと開ききった瞳孔(笑)、滝のように流れる汗、乱れる髪……ちなみに夢中で踊り過ぎると酸欠になったり脱水状態になるので、適度な休息と十分な水分補給を忘れずに、というのは基本的な作法。
 別に身体を激しく動かすことだけがトランス率の高さを示しているわけでもなく、キマりすぎているとたとえ手踊りだけでも、あるいは音に耳を持っていかれて、じっと目をつぶってうずくまっている輩もいる(それとも悪酔い?)。それでも十分ディープなトランスに入っているのだから、ここにいたっての各自の状態は奥深い。
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